米イランの停戦交渉が4月11日に崩壊し、トランプ大統領がホルムズ海峡の封鎖を命じたにもかかわらず、金の価格は4月12日終値で1オンス4,751ドルと高止まりを維持している。停戦合意後に一時4,812ドルまで上昇した後、利益確定売りが入って下落したものの、下値は限定的だ。和平交渉の先行きが見通せないなか、安全資産としての金需要は底堅い状況が続いている。
停戦合意から崩壊まで — 金価格が辿った動き
4月8日、トランプ大統領がイランとの停戦合意を発表した。空爆の停止で地政学リスクが一時後退し、リスクオン相場となったため、安全資産とされる金は売られやすい環境になった。ところが金価格は逆に4,812ドルまで上昇した。なぜか。
停戦後、原油価格は前日比15%超の急落を見せた。原油安はインフレ圧力を和らげ、「FRBが利下げしやすくなる」という期待を生んだ。金利が下がると、金利を生まない金を持つ機会コストが下がり、金は買われやすくなる。停戦による直接的な安心感と、利下げ期待が重なって金が上昇した形だ。
その後、4月11日にJDバンス副大統領がイスラマバードでの米イラン交渉の失敗を発表。4月12日にはトランプ大統領がSNSでホルムズ海峡の封鎖命令を投稿した。地政学リスクが再燃し、原油価格は再び上昇基調に転じている。金の価格は4,751ドルで踏みとどまっており、前週比では約2%の上昇を維持している。
金は利子や配当を生まない資産だ。銀行預金や国債の金利が高ければ、金を持つより預金や国債を持つほうが有利になる。逆に金利が下がると預金・国債の旨味が薄れ、金への資金流入が増える。「金利と金は逆相関する」といわれる理由がこれだ。FRBが利下げを示唆するたびに金が上がりやすいのは、この構造による。
ホルムズ海峡封鎖が意味すること
ホルムズ海峡は、中東産原油の約3割が通過する世界最重要の海上輸送路だ。ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐこの海峡を封鎖すれば、サウジアラビア、UAE、クウェート、イラクなどの産油国からの原油輸出が実質的に止まる。
封鎖が長引けば、世界の原油供給の大幅な削減につながり、エネルギー価格が再び急騰する。価格が上がれば企業コストが膨らみ、消費者物価に転嫁される。その結果、インフレが高止まりし、FRBは利下げを先送りせざるを得なくなる。インフレ継続かつ利下げ困難という環境は、金にとって追い風だ。
3月の米国消費者物価指数(CPI)はすでに前年比3.3%と、FRBの目標である2%を大幅に上回っている。ホルムズ海峡封鎖が長期化すれば、インフレの再加速は避けられない。
機関投資家はいくらを予測しているか
JPモルガンは2026年第4四半期の金価格平均を1オンス5,055ドルと予測している。Goldman Sachsは年末目標を5,400ドルとしており、現在の4,751ドルから約13%のアップサイドを見込む。
これらの予測の背景には、金を押し上げる3つの構造要因がある。第一がインフレの高止まりだ。トランプ政権の関税政策が製品価格の押し上げ圧力を生み出し、インフレヘッジとしての金需要が底堅い。第二がドル安だ。米国の財政赤字拡大と脱ドル化の動きを背景に、ドル指数は下落傾向にある。金はドルと逆相関しやすく、ドル安は金価格の押し上げ要因になる。第三が新興国中央銀行による金購入だ。世界101の中央銀行の72%が外貨準備に金を保有しており、脱ドル化を進める国々が金の購入を続けている。
3月に金価格が3月に1オンス5,195ドルの高値から急落した局面については、4月9日の記事で詳しく解説している。レバレッジを使ったポジションの強制清算(デレバレッジ)が主因だったが、中央銀行の金購入という構造的な需要は変わっていない。
私たちの生活にどう関係するか
ホルムズ海峡封鎖が継続すれば、日本のガソリン価格や電気代が再び上昇する可能性がある。日本はエネルギーをほぼ全量輸入に依存しているため、原油高の影響を直撃で受ける。食料品や日用品の価格にも波及しやすく、家計への負担が増す。
金は個人投資家にとってインフレへの備えとなる資産だ。株式や債券と価格変動の方向が異なることも多く、資産の一部に金を組み入れることで、インフレや地政学リスクへの分散効果が期待できる。ただし、金は利子や配当を生まないため、保有コストを理解したうえで使う必要がある。
今後の注目点
最も重要なのは、イスラマバードでの和平交渉の再開があるかどうかだ。交渉が完全に決裂したままホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、原油高とインフレの再加速が確実視される。逆に交渉が再開され停戦の見通しが立てば、地政学リスクプレミアムが剥落し、金は4,700ドルを割り込む場面もあり得る。
4月14日の米3月PPIも重要な指標だ。PPIが予想を上回れば、インフレ長期化への懸念が強まり、金には追い風になる。また中央銀行による金購入が継続するかどうかも、中長期の価格を左右する。
個人投資家が意識すべき3つのポイント
- 地政学リスクと金価格の連動を確認する習慣を持つ: ホルムズ海峡封鎖や米イランの軍事情勢は、金価格に直接影響する。ニュースで停戦か交渉再開の報が出たときは、金が一時的に売られる場面があることを頭に置いておきたい。急落時が買い増しのタイミングになることもある。
- 4,700ドルと4,812ドルを当面のサポート・レジスタンスとして意識する: 4,812ドルは停戦直後の一時高値であり、ここを超えると次の節目(5,000ドル台)が視野に入る。一方、4,700ドルを割り込むと短期的な下落圧力が強まる可能性がある。
- 資産全体に占める金の比率を確認する: 機関投資家は一般的にポートフォリオの5〜10%を金に配分するとされる。個人の場合もインフレヘッジとして一定の比率を持つ意味はあるが、金は短期的なボラティリティが高い点も忘れないようにしたい。

