米上院銀行委員会は2026年5月14日午前10時30分(東部時間、日本時間14日午後11時30分)、暗号資産の市場構造を定める法案「Digital Asset Market Clarity Act(通称:CLARITY Act)」のマークアップ採決を行う。前日13日、共和党最後のholdoutだったジョン・ケネディ上院議員(ルイジアナ州)が賛成を表明し、全共和党票の確保が確定したことで、法案の委員会通過は濃厚となった。予測市場Polymarketでは、CLARITY Actの2026年内成立確率が73%まで上昇している。
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採決の前提——共和党13対民主党11、Kennedyが最後の懸念派だった
米上院銀行委員会は共和党13人、民主党11人の計24人で構成される。委員会の議決は単純多数決のため、全共和党票が揃えば民主党全員が反対しても法案は本会議に送られる。CLARITY Actは党派色の強い法案で、民主党側はエリザベス・ウォーレン議員(マサチューセッツ州)を中心に強い反対姿勢を示してきた。共和党内ではほとんどが賛成派だったが、Kennedy議員だけは「暗号資産業者の利益相反規制が弱い」「ステーブルコイン関連でGENIUS Actとの整合性が取れていない」との理由で慎重姿勢を貫いていた。
共和党側のリーダーで委員長を務めるティム・スコット議員(サウスカロライナ州)は、Kennedy議員との水面下の交渉を続けていた。その合意内容が5月13日に明らかになり、Kennedy議員が賛成に回ったことで、本日の採決は事実上「結果が見えた状態」での通過儀礼となる。
Kennedyが獲得した2つの譲歩——受託者責任条項とBuild Now Act抱き合わせ
Kennedy議員がスコット委員長から獲得した譲歩は2点に整理される。第一に、暗号資産業界で働く者に対して「受託者責任(fiduciary duty)」を課す条項を追加することで合意した。受託者責任とは、顧客の利益を自らの利益より優先する法的義務のことで、米国では伝統的に投資顧問業や信託銀行業に課されてきた。これを暗号資産業者にも拡張することで、Kennedy議員は「顧客資産の流用を起きにくくする」歯止めをかけた格好である。
第二に、本来は別の法案として扱われてきたウォーレン議員の「Build Now Act」住宅法案を、CLARITY Actのパッケージに抱き合わせることで合意した。Build Now Actは住宅供給促進のための連邦政府支援を盛り込む法案で、ウォーレン議員の地元マサチューセッツ州を含む民主党票を取り込む狙いがある。CLARITY Actの推進派にとっては「民主党最大の反対派の足を緩める」効果が期待される一方で、暗号資産規制と住宅政策という畑違いの法案を一本化する点については、市場関係者の間で意見が分かれている。
修正案は130件超、ウォーレン議員1人で44件——民主党と銀行ロビーの抵抗
銀行委員会のメンバーは採決前日までに130件を超える修正案を提出した。このうちウォーレン議員1人で44件を提出しており、民主党側はDeFi(分散型金融)規制の強化、ステーブルコインの準備資産規制の厳格化、政府高官の暗号資産保有禁止条項の追加などを盛り込もうとしている。これらの修正案の多くは委員会の投票で否決される見通しだが、議論を長引かせて法案の勢いをそぐ効果を狙っている。
銀行業界のロビー団体も、ステーブルコイン関連条項に最後の反対圧力をかけている。CLARITY Actはステーブルコインの裏付け資産について「1対1の準備」と「SEC/CFTC管轄の整理」を定めており、既に成立済みのGENIUS Act(ステーブルコイン単体の規制法)と組み合わせて米国規制パッケージを形成する建て付けである。銀行業界は「預金との競合が強まる」「銀行以外の発行体にも実質的な銀行業務を許す」との立場で、ステーブルコイン条項の修正を求めてきたが、Kennedy賛成表明によりこの圧力も委員会段階では退けられる見通しとなった。
委員会通過後の道筋——上院本会議とH.R.3633下院案との統合
本日の銀行委員会で可決されたCLARITY Actは、上院本会議の採決に進む。ただし上院農業委員会が2026年1月に独自版を可決しているため、本会議では銀行委員会版と農業委員会版の統合作業が必要となる。さらに下院は2025年7月17日に独自の市場構造法案「H.R.3633」を294対134の超党派で可決済みであり、上院通過後に上下両院の調整委員会で最終文言を詰める段階が控える。
調整委員会で焦点となるのは、ステーブルコインの利回り提供制限(GENIUS Actとの整合性)、トークン化株式を証券かデジタル商品のどちらに位置付けるか、政府高官の暗号資産保有を制限する倫理条項の有無、の3点である。これらは民主党側が強くこだわる論点で、最終文言次第ではトランプ大統領一家の暗号資産事業(World Liberty Financial、ミームコイン等)に影響を及ぼす可能性もある。
本誌では前日にCLARITY Act法案の全文構造を整理した記事を公開している。本記事は採決の見通しとKennedyの譲歩条件、本会議への道筋を整理する続編である。
日本の暗号資産投資家にとって何を意味するか
第一に、SEC(米証券取引委員会)とCFTC(米商品先物取引委員会)の管轄整理は、日本国内の取引所が扱う銘柄選定にも間接的に影響する。米国でCFTC管轄の「デジタル商品」と認定されたトークンは、機関投資家のオンランプが整いやすくなり、流動性とボラティリティの両方に影響を与える。
第二に、ステーブルコイン規制の枠組みが固まれば、USDC(サークル)やUSDT(テザー)の米国での発行・流通の根拠法が整う。日本の改正資金決済法との制度的な親和性が高まり、国内のステーブルコイン関連サービスの選択肢も広がる可能性がある。
第三に、ホワイトハウスの暗号資産・AI担当ディレクター、デビッド・サックス氏はCLARITY Act採決を「米国を世界の暗号資産首都にするための歴史的な一歩」と位置付けており、トランプ政権の暗号資産政策が積極推進フェーズに入る象徴的な節目となる。
個人投資家が意識すべき3つのポイント
第一に、本日のマークアップで法案が委員会を通過しても、上院本会議・下院との統合・大統領署名までには数カ月単位の時間を要する。「採決即発効」ではない点を踏まえ、短期の値動きで一喜一憂しないことが重要となる。
第二に、Kennedy議員が獲得した受託者責任条項は、米国の暗号資産業者にとってコンプライアンス負担の増加を意味する。中小の取引所・ウォレット業者にとっては事業継続のハードルが上がる可能性があり、業界再編につながる場合もある。日本国内の取引所も米国市場との接続を持つ場合は同様の影響を受け得る。
第三に、ステーブルコイン条項とトークン化株式条項は、上下両院の調整委員会で最も揉める論点である。最終法案の文言次第では、PayPal USD(PYUSD)やトークン化米国債(Ondo USDY等)の事業環境が大きく変わる。投資家としては、法案の細部が固まる段階まで、関連銘柄のポジションを過度に積み増さない姿勢が無難である。
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