ニューヨーク証券取引所(NYSE)が、上場株式とETFを「トークン化形式」で取引できるようにする規則変更を米証券取引委員会(SEC)に申請した。crypto.newsが5月3日に報じた。整理番号はSR-NYSE-2026-17。米国の証券集中保管機関である DTC(Depository Trust Company)が運営する3年間のトークン化パイロットに、Nasdaqに続いて参加することを目指す内容となる。
本件は4月9日付で申請され、SECが4月17日に公示。公開コメント期間は5月13日まで設定されている。承認されれば、米国の主要取引所が制度面でブロックチェーンインフラに接続する分岐点となる。
申請の中身——「同じCUSIP、同じ議決権」を維持したまま
NYSEの提案は、既存のRule 7.50に新たな条文を加え、同取引所のオーダーブックでトークン化された証券を取引可能にするというものだ。ここで重要なのは、トークン化版が独立した「クリプト商品」として発行されるのではなく、従来の上場証券と同一であり続ける設計が採られている点となる。
具体的には、トークン化された株式・ETFは、原資産と同じCUSIP番号、同じティッカーシンボル、同じ議決権、同じ配当を受け取る権利を持つ。会員は通常通り取引所に注文を出し、決済段階でDTCに「トークン形式で清算してほしい」と指示を出すことができる。
CUSIPは米国・カナダで証券を一意に識別する9桁の番号。同じCUSIPを持つ証券は法的・会計的に同一資産として扱われる。トークン化版が同じCUSIPを持つということは、機関投資家のポートフォリオ管理・税務処理・コンプライアンスの仕組みをそのまま流用できることを意味する。
パイロット対象として想定されているのは、当初はRussell 1000構成銘柄と主要指数連動ETFとなる見込みだ。米国大型株のほぼ全領域がカバーされる規模となる。
なぜ「別のクリプト商品」ではなく「同じ証券のトークン化」なのか
過去のトークン化試行の多くは、原資産とは別の「ラッパー(包み)」を作る形式が中心だった。例えばBlackRockのBUIDLやFranklin TempletonのBENJIといった米国債トークン化商品は、別建ての投資ヴィークルとして発行されている。これに対しNYSEの今回の提案は、「上場している株式そのもの」をトークン形式に切り替える設計が選ばれた。
この設計が選ばれた理由は、流動性の分断を避けるためだと考えられる。仮に「トークン化版IBM株」と「通常のIBM株」が別オーダーブックで取引されると、価格が乖離し、機関投資家にとって裁定取引や在庫管理が複雑になる。同じオーダーブックで決済方法だけを選択できる仕組みなら、流動性は1本化されたまま、ブロックチェーン経由の決済オプションを追加できる。
NasdaqはすでにDTCパイロットへの参加が3月に承認されており、NYSEが追随する形となる。米国の二大取引所が制度面でトークン化インフラに接続することで、業界全体の標準形が固まりつつある段階と整理できる。
SECスタッフ・ノーアクションレターが土台
3年間のDTCパイロットそのものは、2025年12月にSECスタッフが発行したノーアクションレターを根拠としている。これは「特定の条件下でDTCがトークン化決済を行っても、SECは執行措置を取らない」という事前合意を意味する。トークン化された証券の保管・決済を担う中央インフラ(DTC)が動いてはじめて、取引所のトークン化版上場が成立する構造となっている。
WatersTechnologyによれば、Nasdaqの先行案は3月にSECが承認している。NYSEのRule 7.50案も、構造がNasdaq案と類似しているため、公開コメント期間(5月13日まで)の論点が大きく変わらなければ、夏以降の承認に向かう可能性が高い段階となる。
私たちの投資にどう関係するか
日本の個人投資家にとって短期的な価格材料というより、中長期のインフラ転換として捉えるのが妥当となる。注目点を3つに絞ると次のようになる。
第一に、米国株のオンチェーン版が承認されれば、ステーブルコインを介して24時間取引できる流動性経路が見えてくる。現状の米国株取引は東京時間の深夜にしか開かないが、トークン化が進めば日本の昼間にDeFi系プラットフォーム経由で売買できる可能性が出てくる。
第二に、トークン化インフラを支えるオラクル・スマートコントラクト基盤への資金流入が見込まれる。具体的にはチェーンリンク(LINK)のようなインフラ系トークン、あるいはOndo・Securitizeといった現実資産トークン化(RWA)プラットフォームが恩恵を受ける構図と整理できる。
第三に、トークン化が普及しても、株主としての権利(議決権・配当)は変わらない設計になっている点は安心材料となる。トークン化版を保有しても、配当課税や四半期決算開示など既存の制度はそのまま適用される。
個人投資家が意識すべき3つのポイント
1. 5月13日の公開コメント期限まで論点が出尽くす。承認時期を見極める材料となる。
2. NYSEとNasdaqが揃ってトークン化に動く流れは止まらない。RWA関連トークンは中長期テーマとしてポートフォリオに少額組み入れる選択肢が出てきている。
3. トークン化版が普及しても、既存の証券口座・ETFの保有が不利になる訳ではない。慌てて移行する必要はない。インフラが整うまで2〜3年単位で見守る姿勢が現実的となる。
