2026年5月21日、香港の投資ファンド「オアシス・マネジメント」が、KADOKAWA(証券コード:9468)の夏野剛最高経営責任者(CEO)について、6月24日の定時株主総会で再任に反対票を投じるよう全株主に要請する声明を発表した。あわせて133ページに及ぶプレゼンテーション資料「より強いKADOKAWA」を公開し、解任要求の根拠を詳細に示した。
フロム・ソフトウェア(「エルデンリング」「SEKIRO」シリーズ)、ニコニコ動画、N高等学校——多彩な事業を抱える日本を代表するコンテンツ企業が、なぜアクティビストの標的となったのか。経緯から今後のスケジュールまでを整理する。
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オアシスとは何者か
香港を拠点とするアクティビスト(物言う株主)として知られる投資ファンド。2002年にセス・H・フィッシャー氏が創設した。日本企業に対しても積極的にエンゲージメントを行うことで知られている。
KADOKAWAとの関わりは2020年に始まる。オアシスはこの頃からKADOKAWA株の取得を開始し、フロム・ソフトウェアのIP価値を最大化するよう繰り返し要求してきた。そして2026年3月27日、オアシスはKADOKAWA株を買い増して議決権比率を11.89%に引き上げ、それまでの筆頭株主だったソニーグループ(10.04%)を抜いて新たな筆頭株主となった。現在の保有比率は約13.76%に達している。
5年間の業績悪化——数字で見るKADOKAWA
オアシスが問題視する最大の論点は、夏野氏がCEOに就任した2021年6月以降の業績悪化だ。プレゼンテーション資料に示された数字は以下の通りだ。
夏野氏就任前(2021年3月期)から直近(2026年3月期)までの変化:
- 営業利益:136億円 → 81億円(▲40%)
- 営業利益率:6.5% → 2.9%
- 1株当たり純利益:77.42円 → 8.71円(▲89%)
- ROE(自己資本利益率):8.2% → 0.5%
数字の悪化に加え、KADOKAWAは2025年11月に2026年3月期の営業利益予想を38.3%、当期純利益予想を57.0%下方修正した。しかし2026年5月に発表された通期決算では、その下方修正後の予想すら21.3%下回る結果となった。
さらにKADOKAWAは6月の株主総会直前に前中期経営計画を撤回し、財務目標を2032年3月期まで延長した新計画に差し替えた。オアシスは「追加で6年間の猶予を求めながら、従来計画の営業利益やROE目標は6年後においても達成の見通しが立っていない」と批判している。
夏野氏自身、2023年2月の記者会見で「業績の拡大がうまくいかない場合、退任も当然視野に入ってくる」と発言していた。
オアシスが主張する解任理由
133ページの資料をもとに、オアシスが指摘する主要論点を整理する。
① フロム・ソフトウェアの価値を取り込めていない
これがオアシスの議論の核心だ。「エルデンリング」は全世界累計2,500万本超(2024年時点)を誇る世界的IPだ。しかし同作のパブリッシャーはバンダイナムコエンターテインメントであり、KADOKAWAは開発側・ロイヤリティ受け取り側にとどまっている。
オアシスは「自社パブリッシングを実現すれば、現在外部パートナーが得ている利益の大部分をKADOKAWAが直接取り込めるようになる」と長年訴えてきた。夏野氏はこの要求に対して後ろ向きな姿勢を示しており、外部パートナーが利益の大部分を獲得し続ける状況が続くと予想されている。
② 「質より量」戦略が出版・IP事業の収益性を毀損
前中期経営計画では「年間7,000件の新規IP創出」という目標が掲げられていた。オアシスは、この「量」追求が編集者の集中力を分散させ、1タイトルあたりの収益性を低下させたと指摘する。実際、KADOKAWAの出版では「なろう系」「異世界系」への過度な偏重が指摘されており、コンテンツの多様性が失われているとの批判もある。新中期経営計画では刊行数の抑制へと舵を切っており、オアシスはこれを「自らの指摘が正しかったことを暗に認めた」としている。
③ コスト増加と不適切な資本配分
夏野CEO就任後、販売管理費・本社経費が大幅に増加。減損処理が相次いでいることも問題視されている。なかでも、アニメ制作スタジオ「動画工房」については、買収からわずか12ヵ月後に買収価格の約90%に相当する27億円の減損処理が実施された。
④ モバイルゲームへの展開失敗
KADOKAWAは「リゼロ」「異世界おじさん」など世界的に人気の高いIPを多数保有しているが、モバイルゲーム化による収益創出に繰り返し失敗している。ニコニコ動画も競争力を失い続けており、その他セグメントは年間40〜50億円規模の損失を継続的に計上している。
⑤ ガバナンスの懸念
夏野氏はKADOKAWA CEO・ドワンゴ社長と並行して、国内上場企業4社(グリーホールディングス・U-NEXT HOLDINGS・トランス・コスモス・日本オラクル)の社外取締役を現在も兼任。さらに財団法人・業界団体・未上場企業など多数の役職を兼務している。オアシスはこれに加え、ABEMA Primeへの頻繁な出演や度重なる不適切発言が「CEOとしてKADOKAWAの経営に十分専念しているのかについて大きな疑問を生じさせる」と指摘している(詳細は後述)。
また2024年の大規模サイバー攻撃(個人情報約25万件漏洩)と、公正取引委員会による下請法違反への勧告も、ガバナンス上の問題として列挙されている。
KADOKAWAの反論
2026年5月14日、KADOKAWAの取締役会は株主提案への反対意見を公式に表明した。取締役会は「質より量」戦略との指摘を否定し、編集者1人当たりの出版点数を増やさずに売上拡大を図る方針を採用しており、過去5年間で編集者1人当たりの売上は伸長していると反論している。ゲーム事業についても、IPごとに収益最大化を目指したパブリッシング戦略を採用していると説明している。サイバー攻撃についても、夏野氏主導で進めてきたDX・ITインフラ強化によって被害拡大防止や復旧を迅速に進められたとしている。
取締役会は夏野氏の再任を推薦しており、6月の株主総会で可否が問われる。
ソニーとの関係——もう1つの背景
KADOKAWAの株主構成を理解するうえで外せないのがソニーグループの存在だ。ソニーは2021年2月にKADOKAWA株約2%を取得して資本提携を締結。2024年12月には追加で約500億円を投じてKADOKAWA株を取得し、2025年1月7日付で議決権比率が10.11%に上昇、筆頭株主となった。その後2026年3月にオアシスが買い増したことで、現在はソニーの議決権比率が10.04%、オアシスが約13.76%という構図になっている。
ソニーはまたKADOKAWAの傘下であるフロム・ソフトウェアにもテンセント系ファンドのSixjoyとともに出資しており、Sixjoy出資完了時点でKADOKAWAの同社への保有比率は100%から69.66%に低下している。
さらに2024年11月には、ソニーがKADOKAWAの買収協議を進めているとの報道が相次いだ。KADOKAWAは「当社として決定した事実はない」とコメントしたが、この報道はオアシスが株式を買い増す直前に出たものでもある。ソニーとオアシスという2つの大株主が並立するなか、KADOKAWAをめぐる争奪戦の様相も呈している。
今後のスケジュール
| 日付 | イベント |
|---|---|
| 2026年4月17日 | オアシスがKADOKAWAに夏野CEOの解任を求める株主提案書を提出 |
| 2026年5月14日 | KADOKAWAの取締役会が株主提案への反対意見を表明 |
| 2026年5月21日 | オアシスが133ページのプレゼンテーション資料を公開・株主への反対要請 |
| 2026年6月中旬 | 株主総会招集通知・議決権行使書の発送(予定) |
| 2026年6月24日 | KADOKAWA定時株主総会(夏野CEO再任の可否を決する議決) |
注目ポイント:可決のハードルは高い
株主提案の可決には過半数の賛成が必要だ。KADOKAWAにとって最大の株主はオアシス(約13.76%)で、次いでソニー(約10%)、フロム・ソフトウェアへの出資で関係が深いテンセント系Sixjoy(約16%)が続く。机上の計算では反対派(オアシス)の保有比率だけでは過半数に届かず、機関投資家・国内外の一般株主がどちらに票を投じるかが鍵を握る。
国内機関投資家の議決権行使助言会社がどう判断するか、ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)やグラスルイスの推奨動向も6月以降に注目される。
夏野氏の言動——資料が指摘するもうひとつの問題
オアシスの133ページ資料のなかで、ガバナンスセクションの「メディア露出」と「問題発言」は業績数字とは一味違う読み物になっている。
ABEMA Primeに2026年だけで10回出演
資料98ページによれば、KADOKAWAが業績悪化・構造改革という喫緊の課題を抱えるなか、夏野氏は「ABEMA Prime」のコメンテーターとして2026年に入ってから既に10回出演している(1月14日・21日・28日、2月4日・18日・25日、3月4日・11日・18日、4月22日)。「CEOが本業にどれだけ専念しているのか」という疑問を、日付入りで突きつけた形だ。
「クソなピアノの発表会」発言で役員報酬を自主返上
資料99ページに原文が掲載されている。2021年7月21日のABEMA Prime出演時、東京五輪開催への不公平感を指摘するコメンテーターへの返答として「そんなクソなね、ピアノの発表会なんかどうでもいいでしょ、オリンピックに比べたら。それを一緒にするアホな国民感情に、やっぱ今年選挙があるから乗らざるを得ないんですよ」と発言した。KADOKAWAは「当社社長として大変不適切」と公式に認め、役員報酬月額20%を3ヶ月間自主返上させた。
「絨毯爆撃してそいつら全員殺せ」発言
資料101ページに掲載されている2017年のニコニコ生放送での発言がさらに強烈だ。羽田新航路開設に反対する住民について「B-2爆撃機でそのへん絨毯爆撃したらいいよ。そいつら全員殺せ。いらねえよ」と述べていた。オアシスはこれらをまとめて「上場企業のCEOに求められる十分な判断力と品位を有しているのかについて重大な疑義を生じさせる」と評している。
これらの発言・行動は、業績数字とは別の「人物像」としてのガバナンス問題として資料に組み込まれており、今回の騒動を「株主総会の話」を超えて広く知られるきっかけになっている。
- オアシス・マネジメント プレスリリース「オアシスはKADOKAWAの株主に対し、2026年定時株主総会にて夏野剛CEOの再任に反対票を投じるよう要請」(2026年5月20日)
- オアシス「より強いKADOKAWA」プレゼンテーション資料(2026年5月20日)
- KADOKAWA定時株主総会招集通知関連資料(2026年5月)
- 日本経済新聞「KADOKAWA、オアシスからの夏野社長解任提案に反対」(2026年5月14日)
- 日本経済新聞「カドカワ、オアシスが筆頭株主に 議決権比率11.89%」(2026年3月27日)
- KADOKAWA「株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」(2026年5月14日)
- CNBC「Sony in talks to buy media powerhouse behind ‘Elden Ring’, Reuters reports」(2024年11月19日)
- KADOKAWA「連結子会社の第三者割当増資に関するお知らせ」(2022年8月31日)
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