OECDは3月26日、2026年の世界経済見通しを発表し、米国のインフレ率予測を従来の2.8%から4.2%へ大幅に引き上げた。世界経済の成長率見通しも3.3%から2.9%に下方修正され、「物価は上がるのに景気は減速する」スタグフレーションの懸念が現実味を帯びている。
なぜインフレ見通しがここまで跳ね上がったのか
CNBCによると、OECDは今回の引き上げの主因としてイラン戦争によるエネルギー価格の高騰を挙げている。
まず、イラン戦争の影響でホルムズ海峡の通航がほぼ停止した。世界の石油・天然ガスの約20%がこの海峡を通過しており、供給が絞られた結果、ブレント原油は1バレル108ドルを超えた。日本を含む各国が石油備蓄の放出に動いているが、供給不足を完全には補えていない。
原油が上がると、ガソリン代や電気代だけでなく、物流コストを通じてあらゆる商品の価格が上がる。これが企業のコストを押し上げ、最終的に消費者が支払う価格に転嫁される。OECDの試算では、この連鎖がG20全体のインフレ率を4.0%まで押し上げるとしている。
さらに、トランプ政権の関税政策も上乗せ要因だ。最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税を違憲と判断した後も、通商法122条に基づく代替関税(10%、150日間の時限措置)が継続しており、輸入品の価格上昇圧力は残っている。
物価が上がり続ける(インフレーション)のに、経済成長は停滞する(スタグネーション)状態のこと。通常、物価上昇は景気が良い証拠だが、原油高のように外部要因でコストが上がる場合は、景気が悪いのに物価だけが上がるという最悪の組み合わせになる。1970年代のオイルショック時に世界が経験した。
FRBは「利下げも利上げもできない」板挟みに
ブルームバーグが報じたところでは、OECDの4.2%という予測はFRB自身の見通しを大きく上回っている。コアPCE(個人消費支出物価指数)は1月時点で3.1%に加速しており、FRBの目標である2%からは遠い。
この状況でFRBが取れる選択肢は限られている。インフレを抑えるなら利上げが必要だが、利上げすれば景気はさらに冷え込む。景気を支えるなら利下げしたいが、利下げすればインフレがさらに加速する。米2年債利回りは4.00%に達し、FF金利(3.64%)を上回っている。つまり、債券市場はFRBの次の一手が「利上げ」になる可能性を織り込み始めている。
欧州でも同様の動きが出ている。CNBCによると、ECBのラガルド総裁は「インフレの急騰が一時的であっても、ある程度の政策調整は正当化される可能性がある」と発言した。バークレイズとJPモルガンは年内3回の利上げ(4月・6月・7月)を予想している。
株式市場は「リスクオフ」一色
金融市場はすでに反応している。3月26日のS&P500は1.74%安の6,477ポイント、ナスダック総合は2.38%安と大幅に下落した。ダウ平均も469ポイント安で、3月月間ではS&P500が4.8%の下落となっている。
CNBCはさらに、米国のリセッション(景気後退)懸念が急速に高まっていると報じている。NerdWalletの調査では消費者の65%がリセッションの到来を予想しており、前月から6ポイント上昇した。2025年通年の雇用創出はわずか11万6,000人にとどまり、2月には9万2,000人の雇用が失われた。
テクノロジー株を中心にナスダックの下落が最も大きく、グロース株からバリュー株・エネルギー株へのローテーションが進んでいる。原油先物市場はバックワーデーション(逆ザヤ)状態に入っており、期近の価格が期先よりも高い。つまり、市場参加者は現在の原油高を「一時的」と見ているが、戦争が長期化すればこの楽観シナリオは崩れ、インフレがさらに加速する可能性がある。
私たちの生活にどう関係するか
OECDの見通しが正しければ、影響は多方面に及ぶ。まず住宅ローン金利の上昇だ。米国ではすでに住宅ローン金利が6.43%に達しており、日本でも日銀の利上げ観測から変動金利の上昇が始まっている。
次に食品・日用品の値上がりだ。原油高は物流コストを通じてスーパーの商品価格に波及する。さらに円安が進行中(1ドル=159円台後半)であり、輸入品の価格上昇が加わる。
株式市場の下落は、投資信託やNISAで運用している資産の目減りにつながる。特にグロース株中心のポートフォリオは影響が大きい。
今後の注目点
最も重要なのは3月28日に発表される米PCEインフレデータだ。コアPCEが3.1%を超えてさらに加速していれば、FRBの利上げ観測が一段と強まり、株式市場と債券市場の両方に売り圧力がかかる。
同日はイラン外交の期限も到来する。停戦交渉が進展すれば原油価格の下落を通じてインフレ圧力が和らぐ可能性があるが、交渉決裂なら原油がさらに上昇し、OECDの見通しすら楽観的だったということになりかねない。
また、トランプ政権の代替関税は150日間の時限措置であり、7月末頃に失効する。議会承認が得られるかどうかで、貿易コストの見通しが大きく変わる。
個人投資家が意識すべき3つのポイント
- インフレヘッジの再点検 — OECDが4.2%を予想する環境では、現金の購買力は年間4%以上目減りする。物価連動債やコモディティへの分散が選択肢になる。一方でエネルギー価格の急落リスク(停戦シナリオ)もあるため、一方向への偏りは避ける
- グロース株からバリュー株へのローテーションに注意 — 金利上昇局面ではテクノロジー株など高バリュエーション銘柄が売られやすい。ナスダックの2.38%安はその兆候。ポートフォリオのセクター配分を確認し、金利上昇に強いセクター(金融、エネルギー)とのバランスを取る
- 3月28日のPCEデータとイラン外交の同時到来に備える — 2つのイベントが同日に重なるため、市場の振れ幅が大きくなる可能性がある。短期売買を行う場合はポジションサイズを抑え、中長期投資家は一時的な変動に振り回されないことが重要
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