「紛争が起きれば金が買われる」という投資の定石が揺らいでいる。
2026年2月末に勃発したイラン紛争は、3月12日時点で13日目を迎えた。しかし、金相場は2週連続の下落という異例の展開を見せている。
ニューヨーク先物市場の4月限は3月12日、前日比43ドル安の1オンス5,136.40ドルで取引を終えた。ザラ場では一時5,238ドルまで上昇したものの、引けにかけて売り込まれる展開となった。
米CNBCは12日付で「なぜ金はイラン紛争以降動かないのか」と題した特集を公開。米ブルームバーグも「原油高の中、金は2週連続の下落へ」と報じている。
紛争の最中にありながら、なぜ「有事の金」は機能していないのか。
金価格が下落している3つの要因
理由①:ドル高による需要抑制
ドル指数(DXY)は99.45まで上昇している。過去の中東紛争ではドルの反応は限定的だったが、今回は構造が異なる。
米国がエネルギーの純輸出国となっているため、原油高は米国経済に寄与する側面があり、「有事のドル買い」が発生している。ドル建てで取引される金は、ドル高局面では割高感から売られやすくなる。
理由②:米債利回りの上昇が逆風
米10年債利回りは4.23%に上昇した。
原油高からインフレ懸念が強まり、米連邦準備理事会(FRB)による利下げ期待が後退。この連鎖が金利の上昇を招いている。金は利息を生まない資産であるため、金利上昇局面では相対的な魅力が低下する。
理由③:高値圏での利食い売り
金相場は直近12ヵ月で75.81%という大幅な上昇を記録している。地政学リスクという不透明要因を背景に、利益を確定する動きが出るのは必然といえる。
キットコのアナリスト、ジム・ワイコフ氏は次のように指摘する。
「市場が強気なファンダメンタルズ材料を受けても上昇できない時、それは買い方の疲弊を示唆している」
相対力指数(RSI)も買われすぎの目安とされる70に近い69に達しており、テクニカル面でも過熱感が意識されている。
過去の有事との相違点
湾岸戦争やウクライナ危機では「ドル安と金利低下」が同時に進行し、金価格を押し上げた。しかし、今回のイラン紛争では「ドル高と金利上昇」という相反する構図が生まれている。
「有事の金」が機能するか否かは、紛争そのものではなく、ドルと金利の動向に依存している。
専門家は依然として「超強気」 ── JPモルガンは年末6,300ドルを予測
短期的には軟調な推移が続く一方、大手投資銀行は強気の見通しを維持している。
- JPモルガン・チェース:年末目標 6,300ドル(現在比 約+23%)
- ドイツ銀行:年末目標 6,000ドル(現在比 約+17%)
プロの投資家が高値圏でもさらなる上昇を見込む根拠は、主に以下の4点に集約される。
第一に、中央銀行による金購入である。世界金評議会(WGC)の調査では、中央銀行の95%が「今後12ヵ月で金準備を増やす」と回答。年間1,000トン超のペースで買いが続いている。
第二に、ホルムズ海峡封鎖の長期化リスクだ。原油価格が150ドルに達した場合、金価格は5,900〜6,400ドルに到達するとの試算がある。
第三に、FRBの利下げ余地である。景気減速が鮮明になれば利下げに転じ、金相場にとって最大の追い風となる。
第四に、脱ドルの潮流だ。BRICS諸国を中心に、ドル資産から金への分散が構造的に継続している。
今後の注目点
テクニカル面では、5,000ドルが重要な下値支持線となる。ここを割り込めば調整が本格化する可能性がある。一方、3月12日の高値である5,238ドルを上抜ければ、上昇基調への回帰が鮮明となるだろう。
3月13日には米GDP改定値やPCE価格指数の発表が予定されており、これらの結果が金利見通しを通じて金価格を左右する可能性が高い。
短期的な価格変動のみならず、ドル、金利、需給の相関関係を注視することが、金投資における肝要な視点となる。
本記事の情報は2026年3月12〜13日時点のものです。投資判断は自己責任でお願いいたします。
参考ソース: CNBC(2026-03-12)、Bloomberg(2026-03-12)、Kitco(2026-03-12)、Phemex(2026-03-12)、FXStreet(2026-03-12)、FX Leaders(2026-03-12)、J.P. Morgan Gold Outlook(2026年通年)

