RWA(現実資産)トークン化市場が269億ドル規模に急拡大するなか、Coinbase Asset Management(CBAM)がファンド管理大手Apex Groupと手を組み、ビットコインで利回りを得られるトークン化ファンドの提供を開始した。ブロックチェーン上で「株式や債券と同じように」ビットコインから安定収益を生み出す仕組みが、本格的に動き始めている。
CoinbaseとApex Groupが仕掛ける「BTC利回りファンド」
CoinDeskによると、CBAMはApex Group(運用管理資産3.5兆ドル)と提携し、ビットコイン利回りファンドの「トークン化シェアクラス」をBaseネットワーク上で発売した。Baseとは、Coinbaseが開発したイーサリアムのレイヤー2ネットワークだ。
この仕組みをかみ砕くと、通常のファンド(投資信託)で購入する「口数」を、ブロックチェーン上のトークンとして発行するものだ。ファンドの持ち分がデジタルトークンになることで、24時間365日いつでも取引可能になる。
トークン規格にはERC-3643が採用されている。一般的なERC-20と異なり、投資家の本人確認(KYC)や適格性審査がトークン自体に内蔵されており、規制に準拠した形で機関投資家が安心して利用できる設計だ。まずは非米国投資家向けに提供が始まり、米国版は後日予定。Apex Groupは2027年6月までに1,000億ドル分のファンドをトークン化する計画を掲げている。
株式、債券、不動産、ファンドの持ち分など「現実世界の資産」をブロックチェーン上のデジタルトークンに変換すること。トークン化されると、24時間取引可能・少額から投資可能・決済が数分で完了するといったメリットが生まれる。
269億ドル市場の内訳 — 米国債トークンが牽引
RWAトークン化は、もはやニッチな実験ではない。市場全体の規模は269.5億ドルに達し、前年比で約4倍に拡大。保有者数は67万4,905人にのぼる。
最大のカテゴリーはトークン化された米国債で58億ドル。米国債は「世界で最も安全な資産」と見なされており、それがブロックチェーン上でいつでも売買できるなら、機関投資家にとって非常に魅力的だ。この分野ではBlackRockのBUIDLファンドが単独で19億ドルの規模に成長しており、世界最大の資産運用会社がトークン化に本腰を入れている。
将来の市場規模予測も強気だ。McKinseyは2030年までに2兆ドル、BCGとRippleの共同レポートでは2033年までに18.9兆ドルと予測している。現在の269億ドルから見れば約74倍の成長余地があり、市場はまだ初期段階にある。
BTC市場の「温度差」 — ETF資金流入は73%減少
一方、ビットコイン市場そのものには逆風が吹いている。BTC価格は約7万426ドルで前日比マイナス4.75%。FOMC後のリスクオフムードが直撃した形だ。
ビットコインETFへの3月の純流入額は約8.9億ドルにとどまり、2月の33億ドルから73%減少。FRBが利下げに慎重な姿勢を示したことに加え、CoinDeskが報じたところでは古参(OG)ウォレットが1億ドル超のBTCを売却しており、長期保有者ですら利益確定に動いている。
注目すべきは、ETFから離れた機関投資家の資金の一部が、トークン化された米国債商品へシフトしている兆候だ。ビットコインのボラティリティ(価格変動の激しさ)を避けつつ、ブロックチェーンの利便性は活かしたい。そうしたニーズがRWA市場の急拡大を後押ししている。
ビットコインは1日で5%近く下落することもあるハイリスク資産。一方、トークン化された米国債は米国政府の信用に裏付けられた安定資産でありながら、ブロックチェーン上で24時間取引・高速決済が可能。暗号資産の技術的メリットを享受しつつリスクを抑えられるため、機関投資家の資金が流入している。
私たちの生活への影響と今後の注目点
RWAトークン化が進むと、個人投資家にも恩恵がある。これまで機関投資家にしかアクセスできなかった高利回りファンドや米国債が、少額からトークンとして購入できるようになる可能性がある。SECが暗号資産の証券該当性を明確化したことで規制環境も整備されつつあり、金融機関の参入が増えれば手数料競争によるコスト低下も期待できる。
ただし現時点では、CoinbaseのBTC利回りファンドは非米国投資家向けであり、日本の個人投資家が直接購入できるわけではない。一方で、大手取引所Crypto.comが従業員12%を削減しAI統合を推進するなど、業界全体が「投機の場」から「金融インフラ」へと構造転換を進めている。BTC価格が7万ドル台で不安定な今こそ、「暗号資産=投機」から「暗号資産技術=金融効率化ツール」への認識転換が重要だ。
今後の焦点は、Apexの1,000億ドルトークン化計画の進捗と、CoinbaseのBTC利回りファンドが米国市場に解禁されるタイミングだ。McKinseyの2兆ドル予測が現実味を帯びるかどうかは、既存金融機関のブロックチェーン採用スピードと各国の規制動向にかかっている。
個人投資家が意識すべき3つのポイント
1. RWAトークン化は「次の仮想通貨バブル」ではなく金融の構造変化
主役はビットコインではなく、米国債やファンドといった従来型金融資産だ。BlackRockやCoinbaseが参入しているのは、決済効率化やアクセス拡大といった実務的メリットがあるためで、「トークン=投機」という固定観念は見直す必要がある。
2. BTC価格の下落とRWA市場の成長は矛盾しない
ETF資金流入が73%減少する一方、トークン化米国債は58億ドルに成長。機関投資家は「ブロックチェーン技術は使いたいが、BTC価格リスクは取りたくない」と判断している。BTC価格だけでなく、暗号資産技術が何に使われているかに目を向けることが重要だ。
3. 日本の投資家が直接参加できるのはまだ先 — 今は情報収集のフェーズ
CoinbaseのBTC利回りファンドは日本市場への展開時期は未定。焦って海外の未認可商品に手を出すのではなく、国内金融機関がトークン化商品をどう取り扱い始めるかを見守りつつ、RWAの仕組みや主要プレイヤーについて知識を蓄えておくことが将来の投資判断に役立つ。

