3月12日、国際指標のブレント原油が前日比9.2%上昇し、終値で1バレル=100.46ドルをつけた。終値で100ドルを超えるのは2022年8月以来、約3年半ぶりだ。
注目すべきは、同じ日にIEA(国際エネルギー機関)が加盟32カ国の合意のもと史上最大となる4億バレルの戦略石油備蓄の放出を発表していたことだ。それでも原油は上がった。この記事では、「史上最大の備蓄放出が効かなかった理由」と、その裏で米国が踏み切ったロシア産原油の制裁一時解除について整理する。
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なぜ「史上最大の備蓄放出」が効かなかったのか
IEAが発表した4億バレルの緊急放出は、2022年のロシア・ウクライナ戦争時に放出した1.82億バレルの2倍超という前例のない規模だ。このうち米国が1.72億バレル、日本が8,000万バレル(民間備蓄15日分+国家備蓄1か月分、3月16日から放出開始)を担う。
それでも市場の反応は冷ややかだった。理由はシンプルな算数だ。ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、日量約2,000万バレル(原油1,500万バレル+石油製品500万バレル)の供給が途絶えている。4億バレルの放出ではわずか20日分しかカバーできない計算になる。
CNBCは3月12日、「史上最大の備蓄放出計画は、中東の戦争が数ヶ月続く可能性を示唆している」と報じた。備蓄放出とは、問題を解決する手段ではなく、「時間を稼ぐための応急措置」にすぎない。その時間稼ぎの先に何があるのかが見えていない、という点を市場は問題視している。
米国が踏み切った「ロシア産原油の制裁解除」という禁じ手
備蓄放出と並行して、米国はもう一つの手段に踏み切った。3月12日深夜、米財務省がロシア産原油に対する制裁の30日間一時解除を発表したのだ。
対象は、3月12日時点で海上輸送中のロシア産原油・石油製品に限定される。世界30か所に推定1.24億バレル(世界の消費量約5〜6日分)が滞留しており、これを各国が4月11日までの30日間、購入できるようにするものだ。
ベッセント財務長官はSNS上で「限定的かつ短期的な措置であり、ロシア政府に大きな財政的利益を与えるものではない」と説明した。一方でCNNは同日、「中間選挙を前に原油高が米消費者を直撃することへのホワイトハウスの懸念が背景にある」と報じている。
この措置は「対ロシア制裁」と「原油価格安定」という二つの目標が両立しないジレンマを鮮明にした。ウクライナ侵攻を理由にロシア産原油を制裁してきた米国が、イラン戦争による原油高を抑えるためにその制裁を緩める。「対ロシア制裁」と「原油価格の安定」は同時に達成しにくい──その現実が表面化した格好だ。
ホルムズ海峡の「出口」はいつ見えるのか
原油価格の先行きは、ホルムズ海峡の通航がいつ正常化するかにかかっている。現時点では、見通しは明るくない。
イランの新最高指導者ムジュタバ・ハメネイ師は3月12日、就任後初の公式声明で「ホルムズ海峡の封鎖を戦争の圧力手段として継続する」と明言。一方、米国側では政府内で足並みが乱れている。ベッセント財務長官は「軍事的に可能になり次第、タンカーの護衛を開始する」と述べたが、ライト・エネルギー長官は「まだ準備ができていない。月末までにはできるかもしれない」と発言し、護衛開始の見通しは不透明なままだ。
少なくとも3月中は、現在の供給途絶が続く可能性が高い。原油が100ドル超で推移する期間が延びるほど、実体経済へのダメージは大きくなる。
日本経済への波及──日経平均633円安とスタグフレーションの影
3月13日の東京市場では、日経平均株価が前日比633円安の53,819円で取引を終えた。一時は1,100円を超える下げ幅を記録し、特に製造業セクターが大きな打撃を受けた。日本経済新聞は「ホルムズ海峡不安、日本のものづくりに波及」と報じている。
ブルームバーグの分析はさらに踏み込み、日本の「スタグフレーション(物価高と景気停滞の同時進行)」リスクを警告している。原油が100〜120ドルの範囲で推移した場合、日本のCPI(消費者物価指数)を0.5ポイント程度押し上げる効果があるという。円安(ドル円159円台)による輸入コスト増加と合わせれば、家計への負担はさらに膨らむ。
日本は原油の94%を中東に依存しており、石油備蓄は230日分と主要国で最多だ。しかし、備蓄放出はあくまで「時間稼ぎ」にすぎず、危機が長期化すれば底を突くリスクがある。
投資家が注目すべき3つのポイント
1. 今夜の米PCE物価指数
3月13日夜(日本時間21:30)に発表される1月のPCE価格指数は、FRBが最も重視するインフレ指標だ。コアPCEの市場予想は前年比+3.1%。上振れすれば利下げ後退→ドル高→さらなる円安圧力となり、原油高との「ダブルパンチ」になりかねない。
2. ロシア産原油の「買い手」がどれだけ現れるか
制裁免除が発表されたものの、30日という短期間で1.24億バレルのうちどれだけが実際に取引されるかは不透明だ。買い手が殺到すれば供給改善につながるが、「制裁再開リスク」を恐れて各国が様子見に回れば効果は限定的だ。
3. 来週の中銀トリプルヘッダー
3月17日ECB、18日FOMC、18〜19日日銀と、主要中央銀行の政策決定会合が連続する。各中銀がインフレと景気のどちらを重視するかで、金利見通しと為替・株式の方向感が大きく変わる。
今後を左右するのは?
史上最大の備蓄放出とロシア産原油の制裁一時解除。世界は持ち札を切って原油高に対処しようとしているが、ホルムズ海峡が封鎖されたままでは、いずれも「時間稼ぎ」の域を出ない。原油100ドルの状態が長引けば、日本にとってはスタグフレーションが現実味を帯びてくる。ホルムズ海峡の護衛開始時期と、来週の中銀ウィーク(ECB・FOMC・日銀)の判断。この2つが、当面の経済の方向感を左右することになりそうだ。
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