暗号資産市場が大きく揺れるなか、最もリターンを叩き出しているのはビットコインでもイーサリアムでもない。ステーブルコイン発行大手Circle(ティッカー:CRCL)だ。株価は124.37ドルに達し、この1ヶ月で100%以上の急騰を記録している。
CoinDeskによると、同期間のStrategy(旧MicroStrategy)は+23%、Coinbaseは+8.5%にとどまった。ビットコインを大量保有するStrategyや、暗号資産取引所を運営するCoinbaseといった「暗号資産の花形企業」を、ステーブルコインという地味な事業を手がけるCircleが上回ったのだ。なぜ「退屈」とされてきたステーブルコイン企業が、突如として市場の主役に躍り出たのか。
金利が高いほど儲かるビジネスモデル
Circleが発行するUSDC(米ドル連動型ステーブルコイン)は、1USDC=1米ドルの価値を維持するために、裏付け資産として米国債などの安全資産を保有している。現在のように金利が高止まりしている環境では、この準備金から得られる利息収入がCircleの利益を直接的に押し上げる。
分かりやすく言えば、USDCの発行残高が大きくなるほど、そしてFF金利(3.50-3.75%)が高止まりするほど、Circleは「何もしなくても」利息収入が増える構造だ。通常の暗号資産企業は市場の下落局面で収益が悪化するが、Circleは逆だ。2025年10月以降、暗号資産市場全体が44%下落したにもかかわらず、USDCの時価総額は安定を維持した。価格変動に左右されない「退屈な」ビジネスモデルが、いまの金利環境では最大の強みとなっている。
USDCの利用拡大を支える3つのエンジン
Circleの急騰は、単なる金利メリットだけではない。USDCが「暗号資産の基軸通貨」としての地位を急速に固めていることが大きい。
第一のエンジンは予測市場だ。Polymarket(分散型予測市場)は2025年に220億ドル超の取引量を記録し、その決済の大半がUSDCで行われた。政治イベントやスポーツの結果を予測して賭ける新しい市場で、USDCが事実上の決済インフラとなっている。2024年の米大統領選でPolymarketが注目を集めたことを覚えている読者も多いだろう。その裏で動いていたお金の多くがUSDCだった。
第二はAIエージェント決済だ。自律型AIが他のAIやサービスに支払いを行う「マシン間決済」が急増しており、その約98%がUSDCで処理されている。人間の介在なしにAIが自動で支払いを行う世界で、USDCが「AIのお金」として選ばれている。この分野は2026年に入り急速に拡大しており、AI市場が成長するほどUSDCの利用量も増えるという好循環が生まれつつある。
第三は現実資産のトークン化(RWA:Real World Assets)だ。世界最大の資産運用会社BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」は運用資産20億ドルを突破し、その基盤通貨にUSDCを採用している。米国債やマネーマーケットファンドをブロックチェーン上で取引できるこの仕組みは、伝統的金融とDeFi(分散型金融)の橋渡し役として急成長中だ。金融界の巨人がUSDCをインフラとして採用していることは、ステーブルコインの信頼性を大きく高めている。
Circle自身もUSDCで経営を回す
興味深いことに、Circle自身も自社のステーブルコインを「使っている」。3月初旬には、社内の財務資金移動6,800ドル万をUSDCで処理し、従来の銀行送金を迂回する取り組みを開始した。自社のプロダクトで自社の経営を回すという「ドッグフーディング」は、USDCの実用性を示す強力なメッセージだ。
また、USDCの競合であるTether(USDT)との関係にも注目したい。USDCの発行残高は2023年初頭の15億ドルから現在の265億ドルへと約18倍に成長し、2年連続でUSDTの成長率を上回っている。ステーブルコイン市場全体が拡大するなかで、USDCが着実にシェアを拡大している。
ウォール街のアナリストも強気転換
こうした動きを受けて、ウォール街の評価も急速に変わっている。Clear Streetは投資判断をHold(保持)からBuy(買い)に格上げし、目標株価を136ドルに設定。Mizuhoも目標を100ドルから120ドルに引き上げた。最も強気なSeaport Globalは280ドルという目標を掲げており、現在の株価からさらに125%の上昇余地を見込んでいる。
さらにCompass Pointも1月にSell(売り)からNeutral(中立)に格上げしており、ウォール街全体でCircleへの見方が「懐疑」から「注目」へと転換しつつある。
リスク要因はFRBの利下げ
ただしCircleへの投資にはリスクもある。最大のリスクはFRBの利下げだ。金利が下がれば準備金の利息収入は減少し、Circleの収益構造の根幹が揺らぐ。現在開催中のFOMC(3/17-18)のドットプロットで「年内利下げゼロ」が示されれば、高金利の継続はCircleにとって追い風だ。逆に利下げ再開の兆候が出れば、株価の調整要因となりうる。
また、ステーブルコイン規制の行方も注視が必要だ。米国ではGENIUS Act(ステーブルコイン規制法案)が進行中で、規制の枠組みが明確になればCircleにとってプラスだが、予想以上に厳しい内容になるリスクも残る。
暗号資産投資は価格変動の激しいBTCやアルトコインだけではない。ステーブルコイン発行企業の株式という選択肢が、高金利時代の新たな投資テーマとして注目を集めている。Circleの急騰が示すのは、「退屈こそが最強」という市場の逆説的な教訓だ。

