なぜ再エネは負けたのか? 仏エネルギー大手トタルが洋上風力から全面撤退、再エネから石油・LNGへ大転換

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フランスのエネルギー大手トタル・エナジーズが、米国東海岸の洋上風力発電リース権をすべて放棄した。ニューヨーク、ニュージャージー、ノースカロライナ沖の3海域が対象だ。米政府はリース取得費用9.28億ドル(約1,400億円)を全額返還し、トタル・エナジーズはこの資金をテキサス州のLNGプラントやメキシコ湾の油田開発に投じる。CERAWeek 2026の会場で米国のバーガム内務長官との合同発表という形を取り、米国のエネルギー政策転換との連携を打ち出した。

目次

CERAWeekでの合同発表 ― 何が決まったか

CERAWeekは世界のエネルギー業界首脳が毎年ヒューストンに集まる国際会議で、2026年は3月23〜27日に開催中だ。3月24日、トタル・エナジーズと米国のバーガム内務長官が並んで記者会見を行い、洋上風力リースの全面放棄と資金返還を発表した。リースとは、連邦政府管轄の海域で風力発電所を建設・運営する権利のことだ。通常、企業がリースを放棄しても政府は費用を返さない。しかし今回は「1ドル対1ドル」で全額返還するという異例の対応を取った。つまり、政府が化石燃料投資への転換を後押しするために企業のリスクをゼロにした。

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なぜ撤退したのか ― 経済合理性の逆転

トタル・エナジーズのCEOは「リファイニングマージンがかつてないほど高騰している」と述べた。リファイニングマージンとは、原油を精製してガソリンや軽油にする際の利益幅のことだ。イラン情勢による供給不安で精製製品の価格が原油以上のペースで上がっている。一方、洋上風力は資材価格・金利の上昇と許認可の長期化で投資回収の見通しが悪化していた。同じ資金を石油・ガスに投じたほうがリターンが大幅に高い、という計算が成り立つ状況だ。

キーポイント:リファイニングマージンとは
原油の価格と、それを精製してできるガソリン・ディーゼルなどの製品価格の差額。原油が1バレル100ドルで、精製後の製品が合計130ドルで売れるなら、マージンは30ドルになる。現在はイラン情勢で精製製品の価格が高騰しており、石油精製ビジネスの収益性が極めて高い。

返還資金の行き先 ― LNG・油田・シェールガス

9.28億ドルの返還資金は3つに振り向けられる。第1にテキサス州リオグランデのLNGプラント4基。LNG(液化天然ガス)は天然ガスを冷却して液体にしたもので、タンカーで輸出できる。欧州・アジアがロシア産ガスの代替として米国産LNGの輸入を増やしている。第2にメキシコ湾の在来型油田、第3にシェールガス生産の拡大だ。再生可能エネルギーから化石燃料へと軸足を明確に移した格好だ。

TotalEnergies洋上風力撤退の資金フロー図

CERAWeekで見えた地殻変動 ― ホルムズ海峡の緊張

会場ではホルムズ海峡をめぐる緊張も議題となった。ADNOC(アブダビ国営石油会社)のアル・ジャベールCEOは「ホルムズ海峡の武器化は全世界に対する経済テロリズムだ」と発言した。ホルムズ海峡はペルシャ湾の出口にある幅21マイル(約34km)の水路で、日量2,000万バレル、世界の石油・ガスの約20%が通過する。サウジアラムコのCEOはイラン紛争を理由にCERAWeekへの出席自体をキャンセルした。ブレント原油は停戦楽観論の後退を受けて約104ドル/バレルに戻している。

キーポイント:ホルムズ海峡のボトルネック
ホルムズ海峡は幅約34kmだが、世界の石油・ガス輸送量の約20%がここを通過する。封鎖されると代替ルートはサウジの東西パイプライン(日量500万バレル)などに限られ、供給不足は避けられない。イラン情勢の緊迫がこの「ボトルネック(隘路)リスク」を市場に意識させ続けている。

市場への影響 ― 原油100ドル時代の固定化

TotalEnergiesの撤退は短期的には原油市場に直接影響しない。洋上風力は発電事業であり、石油供給量とは別だからだ。しかし中期的には2つの経路で原油価格を押し上げる。第1に、再エネ投資の縮小は化石燃料への依存を長引かせる。洋上風力が計画通り建設されれば天然ガス火力の需要が減るはずだったが、撤退でその代替が遅れる。第2に、政府がリース費用を全額返還する前例ができたことで、他社も洋上風力から撤退しやすくなった。イラン情勢に加え化石燃料回帰の流れが重なり、原油100ドル台が構造的に続く可能性が高まっている。

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生活への影響 ― ガソリン・電気代・食料品

ガソリン価格は高止まりが続く。原油100ドル台が定着すると、日本のレギュラーガソリンは180〜190円/リットルが常態化する。補助金がなければ200円超の計算だ。通勤や物流に車を使う地方ほど打撃が大きい。

電気代にも波及する。日本の発電はLNG火力が約3割を占める。短期的にはLNG需要の増加が価格を押し上げ、電力会社の燃料調達コスト上昇が電気料金に転嫁される。

食料品の値上がりも続く。石油は肥料の原料であり、農業機械の燃料であり、輸送コストでもある。原油100ドル時代はスーパーの食品価格の値下がりを期待できない。

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今後の注目点

CERAWeekの残り日程(3月25〜27日)が重要だ。BP、Shell、Equinorなど他の欧州エネルギー企業が同様の方針転換を発表するかで、洋上風力撤退が業界全体のトレンドかどうかが分かる。

米国の洋上風力政策の全体像にも注意が必要だ。バイデン前政権は2030年までに30GWの洋上風力導入を目標としていたが、現政権が企業のリース放棄を促進する姿勢を見せたことで、目標は事実上棚上げされた。

個人投資家が意識すべき3つのポイント

1. 化石燃料回帰は投資テーマとして有効だ。石油・ガス企業の利益が今後数年にわたり高水準を維持する可能性がある。エネルギーETFやLNG関連銘柄は原油100ドル時代の恩恵を受ける。ただし地政学リスクに左右されるため、ポジションサイズは慎重に管理すべきだ。

2. 再エネ関連銘柄のリスクを再評価する。洋上風力撤退は再エネ投資の採算悪化を企業が認めた格好だ。洋上風力関連企業(タービンメーカー、海底ケーブルなど)の株価は下押し圧力を受ける可能性がある。保有中なら見直しが必要だ。

3. 原油価格を日常的にチェックする。ブレント原油104ドルはインフレ、金利、為替、株式市場のすべてに波及する。原油上昇はインフレ加速、利上げ観測、株安という連鎖を動かす。WTI・ブレント価格の日次チェックは、現在の市場環境で最も効率的な情報収集手段だ。

Houston Public Media – CERAWeek: TotalEnergies Exits Offshore Wind(2026年3月23日)
CNBC – CERAWeek 2026: Energy Leaders Signal Fossil Fuel Pivot(2026年3月24日)

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