ビットコイン(BTC)が3月17日のアジア時間早朝、75,912ドルまで急騰し6週間ぶりの高値を記録した。しかしこのラリーは数時間で失速し、価格は74,074ドルに後退している。
CoinDeskによると、今回の急騰はデリバティブ(金融派生商品)市場の構造的な要因が主因であり、新たな強気の買い手が大量に参入したわけではない。いわば「見せかけのラリー」だった可能性が高い。なぜ75,000ドルを突破できたのに、すぐに戻ってしまったのか。その仕組みを解説する。
プットオプションの巻き戻しが引き金に
暗号資産リサーチの10x Researchの分析によると、今回の上昇の起点は55,000ドル〜60,000ドルのストライク(行使価格)に設定された大量のプットオプション(下落に備えるオプション)が巻き戻されたことにある。
話は2月にさかのぼる。BTCは2月初旬の暴落で一時60,000ドル近辺まで急落した。この下落局面で、多くのトレーダーがさらなる下落に備えてプットオプションを大量に購入していた。55,000ドルや60,000ドルまで下がっても損失を抑えられる「保険」をかけたわけだ。
ところが3月に入り市場が回復基調に転じると、この「保険」は不要になる。プットオプションを閉じる(売る)動きが一斉に加速した。ここで重要なのがマーケットメーカーの役割だ。プットオプションの反対側(売り手側)にいたマーケットメーカーは、リスクをヘッジするためにBTCの空売りポジションを持っていた。プットが巻き戻されるとヘッジの必要がなくなるため、空売りを買い戻す。この「ヘッジ解消の買い」が大量に発生し、BTCの価格が一気に押し上げられて75,000ドルを突破した。
「上がる」ではなく「もう下がらない」だけ
しかし10x Researchは重要な点を指摘している。今回の上昇局面で、上昇方向のコールオプション(上昇に賭けるオプション)の新規買いがほとんど観測されなかったのだ。
つまりトレーダーたちは「もう下がらないだろう」と判断して弱気ポジションを解消しただけで、「ここから大きく上がる」とは見ていない。この違いは極めて重要だ。
ショートカバー(空売りの買い戻し)による上昇は、買い戻しが一巡すれば推進力を失う。燃料が尽きたロケットのようなもので、新規の強気資金が入らなければ上昇は持続しない。実際、BTCは75,912ドルを付けた直後から売りに押され、74,000ドル台に戻っている。
テクニカルの壁「74,400ドル」
テクニカル面でも、74,400ドルが強力なレジスタンス(上値抵抗線)として機能している。この水準は2025年4月にBTCが上抜けし、そこから史上最高値の126,000ドルへの大上昇が始まった起点だ。かつて強力なサポート(下値支持線)だった水準は、いったん下に割り込むと今度は逆に上値を抑える壁に転じる。これはテクニカル分析における「レジサポ転換」と呼ばれる基本的なパターンであり、74,400ドルの壁を明確に上抜けしない限り、本格的な上昇トレンドへの復帰とは判断できない。
今回の動きを時系列で整理すると、BTCは2月初旬に126,000ドルの史上最高値圏から急落し、60,000ドル近辺で底を打った。そこから3月にかけて反発し、約25%の上昇(60,000ドル→75,000ドル)を見せたが、74,400ドルが壁となっている状況だ。2月の暴落で失われた約50,000ドル(40%)の下落のうち、まだ半分も回復していない。
ETF資金流入という「実需」
一方でデリバティブとは異なる前向きな動きもある。米国上場のスポット型ビットコインETFには、3月9日以降で約10億ドル(約1,590億円)の資金が流入している。BTCはこの間に12%以上上昇した。
ETFを通じた機関投資家の買いは、デリバティブの一過性のヘッジ解消とは性質が根本的に異なる。ETFは実際にBTCを購入・保有するため、「実需」としての下支え効果がある。CoinDesk 20指数も24時間で5%上昇し2,202ポイントに到達。イーサリアム(ETH)は+8%の2,360ドル、XRPも+8%と、アルトコインにも資金が広く波及した。
週間パフォーマンスは好調
ただし、少し引いて見れば、暗号資産市場の週間パフォーマンスは堅調だ。BTCは直近1週間で12%超の上昇を記録しており、2025年9月以来最高の週間パフォーマンスとなっている。ETHは週間+13%、XRPは+11%、ソラナ(SOL)は+9.7%と、主要アルトコインも軒並み2桁の上昇を見せた。
この背景には、イラン戦争の激化にもかかわらず暗号資産が底堅さを見せていること、株式市場との相関が低下していること、そしてETFを通じた継続的な機関資金の流入がある。デリバティブ主導の短期的なノイズとは別に、中期的なトレンドは改善の兆しを見せている。
FOMC結果が次の方向を決める
現在開催中のFOMC(3/17-18)の結果発表は日本時間3月19日午前4時、パウエル議長の記者会見は同4時30分の予定だ。注目されるドットプロット(金利予測分布図)で「年内利下げゼロ」が示唆されれば、リスク資産全般に逆風となり、74,400ドルの壁を突破するのはさらに難しくなる。逆にハト派的なサプライズがあれば、デリバティブの巻き戻しではなく実需に基づいた本格的な上昇が期待できる。
デリバティブの力だけで75,000ドルを突破する瞬発力はあった。しかしそこに「留まる力」を得るためには、FOMC後の新たな買い材料が必要だ。短期的な値動きに振り回されず、FOMC後の市場全体の反応を見極めてから判断しても遅くはない。


