「AIでホワイトカラーの仕事が消える」といった話は、もう珍しくない。実際、現場感としては「いや、もうリストラも採用絞りも始まっているのでは」と感じる人も多いはずだ。
ただ、アンソロピックが3月5日に公表したレポートによれば、大量失業時代にはまだ始まってなく、むしろ影響はじわじわと進んでいくという。
アンソロピックの分析では、AIの影響を強く受けやすい仕事で、失業率がはっきり悪化している証拠はまだ確認されなかった。その一方で、22〜25歳の若年層では、AIに置き換えられやすい職種への就職が鈍っている可能性が出てきた。
- 今いる人が一気に失職している証拠は薄い
- ただし、若手の入口は細くなり始めているかもしれない
この“じわっと嫌な感じ”こそが、このレポートの本題である。
影響が大きいのはどんな仕事か
アンソロピックは、AIの影響を受けやすい仕事として、プログラマー、カスタマーサービス担当、金融アナリストなどを挙げている。
ここはある意味、そこまで驚きではない。「生成AIの影響はまずホワイトカラーから来る」という話は、この数年ずっと言われてきたからだ。
しかもレポートでは、AIへの露出が高い職種ほど、高学歴・高賃金寄りで、女性比率が高く、年齢もやや高めという傾向があったとしている。つまり、昔ながらの「単純労働から自動化される」という話とは少し違う。生成AIは、オフィスワークの中枢に食い込みつつある。
では、なぜ「大量失業」は見えていないのか
ここがこのレポートの地味だが重要なポイントである。
アンソロピックは、AIの影響はコロナ禍のように一気に数字へ出るタイプではなく、インターネット普及や対中貿易ショックのように、じわじわ進んでいく可能性があると説明している。
さらに、著者らは失業率を重視している。理由は単純で、失業はもっとも分かりやすい「痛み」だからだ。ただし、求人の減少や職種構成の変化は、すぐに失業率へ表れないこともあるとしている。
実際、分析では2022年後半以降も、AI高露出職種と低露出職種の失業率トレンドは大きく変わらなかった。コロナ期は対面職の多い低露出職種のほうが失業が跳ねたが、その後は大きな差が見えなかったという。
つまり、少なくとも現時点では、「AIのせいでホワイトカラーが一斉に失業している」とまでは言えないわけだ。
でも、若手にはちょっと嫌なサイン
一方で、レポートが示したもうひとつのポイントは見逃せない。
アンソロピックは、22〜25歳の若年層について、AIに強くさらされる職種への就職が2024年ごろからやや弱くなっているとみている。高露出職種への月次の就職率は、2022年比で14%低下したとしており、統計的にはぎりぎりのラインではあるものの、初期シグナルとしては気になる内容だ。
これは、今働いている人がいきなり職を失うというより、まず新人採用や若手の入口のほうから影響が出始めている可能性を示している。企業からすれば、これまで若手に任せていた調査、要約、資料作成といった仕事をAIである程度こなせるなら、採用を急がなくなるのも不思議ではない。
もっとも、研究者自身はこの結果については慎重だ。若者がAI関連職に就かなかったとしても、別の職種に移ったのか、現在の職にとどまったのか、あるいは教育に戻ったのかなど、複数の解釈が考えられる。またデータの計測誤差もあり得るため、この結果だけで断定することはできないとしている。
それでも今回のレポートは、AIによる雇用への影響が、まだ目立つ形では現れていない一方で、労働市場の構造に変化の兆しが出始めている可能性を示している。
少なくとも今のところ、AIによる「大規模な失業」は確認されていない。ただしその裏で、若手の入口が少しずつ細くなっているかもしれない。
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