イアン・ブレマー氏の最新分析によれば、高市早苗首相は戦後日本で最も強い政治的権限を持つ指導者となった可能性がある。
高市氏が1月に打ち出した衆院の解散・総選挙は大きな賭けだった。就任からわずか4カ月、目立った政策実績もない中での冬の選挙。支持率約70%という高い人気が議席に転換される保証はなかった。多くの政治観測筋は「過信」とみていた。
しかし結果は歴史的な大勝だった。
2月8日の総選挙で自民党は465議席中316議席を獲得。従来の198議席から大幅に積み増し、衆院で3分の2の「スーパー多数」を確保した。これは安倍晋三元首相をも上回る、戦後最大級の勝利である。参院では単独過半数を持たないものの、衆院での再可決が可能となり、事実上の強力な政権運営基盤を手にした。
ブレマー氏は、長年「回転ドア」のように首相が交代してきた日本にとって、これは戦後最強のリーダー誕生を意味すると指摘する。

野党崩壊がもたらした地滑り的勝利
今回の最大の敗者は、立憲民主党と公明党が合流して結成された「中道改革連合」だった。中道の合理性を掲げる戦略は有権者に響かず、メッセージは曖昧で新鮮味を欠いた。
一方で高市氏は率直な語り口と「成長優先」のメッセージで無党派層を取り込んだ。自民党の得票率自体は過去と大きく変わらなかったが、野党の分裂と崩壊により小選挙区で一気に議席を積み上げた。
「完全に新しい経済政策」――だが財政は持つのか
高市氏は「完全に新しい経済・財政政策」を掲げている。実質的には大規模な歳出拡大を意味する。
- AIや半導体分野への産業政策
- 社会保障、国防、先端技術への積極投資
- 食品に対する消費税の2年間減税
4月から5月にかけて過去最大規模の国家予算が成立する見通しだ。
しかし問題は財源である。
日本の政府債務は先進国で最も高い水準にある。これまでは超低金利が債務の持続可能性を支えてきたが、日銀はインフレ対応のため金融正常化を進めている。金利上昇局面では、巨額の債務は重荷となる。
高市氏は「新規国債を出さず、成長で賄う」と主張するが、ブレマー氏はこれを楽観的すぎる見通しとみる。
選択肢としては
- 国内機関投資家に国債購入を促す「金融抑圧」
- 日銀による国債買い入れ再拡大
などがあるが、いずれも持続可能な長期戦略ではない。最終的には増税を含む痛みを伴う財政再建が必要になる可能性が高いとブレマー氏は示唆する。
対中強硬路線と軍事的自立
外交面でも高市氏は大胆だ。
- 国家情報局の創設
- 対中投資審査機関の設置(米CFIUS型)
- 反スパイ法の制定
- 防衛費増額と攻撃能力の保有
- 武器輸出拡大
さらに米国依存を減らすため、豪州、インド、韓国、フィリピンとの安全保障協力を強化する方針だ。
憲法改正も掲げるが、国民投票のハードルは高く、短期的な実現は難しいとみられる。それでも安全保障文書の改定だけで十分な軍事強化は可能だ。
中国はすでに観光規制、海産物禁輸、レアアース輸出制限など圧力を強めている。だが選挙結果は北京の思惑を裏切った。強い民意を得た首相との対峙は、中国にとってより難しい局面となる。
ブレマー氏は、米中首脳会談を控え、緊張はさらに高まる可能性があると見る。
トランプとの蜜月
トランプ大統領は選挙直前に高市氏を支持し、勝利後は自らの功績だと主張した。両者は
- 右派ナショナリズム
- 防衛強化
- 移民への慎重姿勢
- 安倍氏との関係
などで共通点が多い。
3月の訪米では大型投資発表を通じて日米同盟の重要性を強調する見通しだ。ブレマー氏は、高市氏がトランプ氏に対中緊張緩和のメッセージを託す可能性にも言及する。
盤石に見えても、リスクは山積
とはいえ、ブレマー氏は楽観一辺倒ではない。以下のような課題が待ち受けていると指摘する。
- 物価高問題は解消していない
- 中国との対立長期化は貿易に打撃
- 債券市場が財政リスクを突きつける可能性
- 自民党特有の政治スキャンダルリスク
さらに高支持率の基盤は議席数ほど厚くない可能性もある。
「日本の鉄の女」は本物か
ブレマー氏は、高市氏が当面、日本政治の唯一の主役であると指摘する。圧倒的多数、弱体化した野党、トランプの後ろ盾。
だが、経済運営を誤れば、有権者は容易に離れる。
高市氏は確かに日本を変える力を手にした。
問題は、その変化が持続可能かどうかである。

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