米政治メディアPOLITICOは2月7日、トランプ政権の対欧州政策や安全保障判断の背後で、国家安全保障会議(NSC)のアンディ・ベイカー国家安全保障担当副補佐官が影響力を強めていると報じた。公の場にほとんど姿を見せない同氏だが、JD・ヴァンス副大統領の外交観を形成し、ホワイトハウスの重要案件にも関与しているという。
POLITICOによれば、ベイカー氏は「リアリスト」を自称し、伝統的な米同盟や海外介入に懐疑的な立場を取る。ヴァンス氏が2028年の共和党候補指名を狙う有力候補と見なされる中、同氏の外交路線を理解するうえでベイカー氏の存在が鍵になるとの見方が強まっている。
ミュンヘン演説と国家安全保障戦略に「指紋」
報道では、ベイカー氏が2025年2月のミュンヘン安全保障会議でのヴァンス氏演説の作成に深く関与したとされる。この演説は、欧州指導者が言論の自由を守れていないことを批判し、不法移民対策の強化を促したうえで、欧州が「基本的価値から後退」していることが大西洋同盟の主要な脅威だと位置づけ、欧州外交界に長く波紋を広げた。
さらにベイカー氏は、政権の新たな国家安全保障戦略の取りまとめにも大きく関与したとされる。同文書は、欧州の「文明としての自信」や「西洋的アイデンティティ」の後退が安全保障上の主要課題だとする主張を掲げ、欧州の「愛国的」ナショナリズム政党の台頭を肯定的に評価。NATOについては拡大路線を批判し、「際限なく拡大する同盟としてのNATO」を終わらせるべきだとする姿勢を示したという。
「抑制主義者」×「柔軟なリアリズム」 欧州は“持続する転換”と警戒
POLITICOは、ベイカー氏が共和党内の抑制主義者(Restrainers)と親和的だと整理する。抑制主義者は、海外の軍事的関与に慎重で、米国の世界的関与を絞り込むべきだという潮流だ。
政権はこの路線を「リアリスト」もしくは「柔軟なリアリズム」と呼び、同盟や外交方針を理念ではなく米国の国益計算に基づいて再設計する考え方を中核に据えるという。欧州側の政府関係者は、これをトランプ個人に留まらない“長期的な変化”として受け止めていると報じられている。
経歴:国務省13年、アフガン・NATO勤務が世界観を形成
ベイカー氏はサンフランシスコ近郊の労働者階級地域で育ち、UCバークレー卒業後、オックスフォードで国際関係論を研究し、学界でも活動した。博士論文(のちに書籍化)は戦後国際秩序の成立を扱い、秩序安定には国家主権や武力行使をめぐる「共有された社会的コミットメント」が必要だと論じたという。
2010年に国務省入りし、アフガニスタンやブリュッセルのNATO本部勤務を含む13年の外交官経験を積む中で、米外交が「エリートの都合で動き、米国民(とくに労働者階級)の利益になっていない」という見方を強めたと、関係者証言として伝えられた。2023年に国務省を離れ、外交観を共有する人物としてヴァンス氏に接近。上院時代から国家安全保障分野で助言し、対ウクライナ支援への反対論形成にも関与したとされる。
ウクライナ停戦交渉で中心役 同盟国は「ロシア評価が違う」と不満も
トランプ政権発足後、ヴァンス氏とベイカー氏は、ウクライナ戦争の「交渉による終結」を強く志向し、資源を消耗する紛争の早期決着を狙うトランプ氏の意向とも一致したという。ベイカー氏はロシア語に堪能で、和平合意の仲介に主要な役割を担い、鉱物取引を含む交渉の初期設計にも関与したとされる。
一方、欧州側の当局者からは、ベイカー氏がロシアの強さや影響力を過大評価しているのではないか、との不満も出ていると報じられた。
政権内の力学:強硬派とのせめぎ合い、同盟は「優先主義者」コルビー氏とも接点
POLITICOは、ベイカー氏が学者肌で戦略家として見られ、外国政府・欧州外交官から「話しやすいイデオローグ」として面会要請が集中していると伝える。ホワイトハウス内ではスージー・ワイルズ首席補佐官に近いともされる。
ただし、抑制主義者の考えが常にトランプ氏の判断を支配しているわけではなく、対イラン軍事行動などでは強硬派の影響も指摘される。そうした中で、ベイカー氏の主要な盟友として挙げられているのが、国防総省のエルブリッジ・コルビー政策担当国防次官だ。コルビー氏は、中国への対抗を最優先に再配分すべきだとする優先主義者(Prioritizers)の代表格とされ、欧州での米軍プレゼンス縮小も辞さない立場だという。
ポスト2028を占う「静かな設計者」
POLITICOは、2028年以降に「ヴァンス流外交」が具体化する場合、ベイカー氏や同氏に近い思想潮流が、共和党外交の方向性を長期にわたり規定し得ると指摘。欧州にとっては、対米関係の前提(NATO観・同盟観)が揺らぐ可能性を含むとして、注意深い観測対象になりつつある。

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